歯科における感染予防

歯科における感染予防

標準予防策の徹底、感染を予防する院内の環境整備を継続して行うことが、歯科医院に求められる感染予防です。
また、歯科医療に関わる全てのスタッフが、1人1人の予防意識を高め、習慣としていくことが感染拡大防止に繋がると考えています。

安全性の高い治療

安全性の高い治療

歯科医院に限りませんが、院内感性を防止することが非常に重要です。感染症にかかっている方の血液や涎が器具につき、歯を削る機器の内部に侵入すれば、他の患者さんに感染してしまうこともあるためです。ですが、「感染症になっている」と自覚していない方もいますから、「感染症の方の来院はお断りします」などと主張するだけでは院内感染を防ぐことはできません。

ですが、多くの歯医者で使われているオートクレーブ滅菌(高圧蒸気滅菌)だけでは、歯を削る機器の中を完全に滅菌することは叶いません。
また、ドリルやバーなどの切削器具や、ミラーなどの基本的な機材も、まずは「消毒液を入れた音波洗浄器」を使って予洗いし、それから高圧滅菌をします(耐熱性能の高い器具に限る)。つまりこれらの機材も、普通は完全滅菌できないということです。
ただ、感染症患者や肝炎患者に対して使った器具は、区別した工程(条件)で滅菌します。

さて当院は、大半の歯医者が実行しないレベルの滅菌システムを取り入れています。そして消毒専門の作業員が、使い捨てのゴム手袋を身につけて、その都度医療器具を徹底的に滅菌しています。

高圧蒸気滅菌器には3クラスあります。

クラスN
(大半の歯医者がこのレベルの滅菌器を使っています)

クラスS

クラスB
(将来的にはこのクラスの高圧蒸気滅菌器が普通になると予想されています)

当院をはじめ感染予防対策に力を注いでいる歯科医院ではクラスBが採用されています。

スタンダード・プリコーション(標準予防策)

「標準予防策」とは医療・ケアをするあらゆるところで遵守される感染予防策のことであり、「スタンダードプリコーション」とも言います。全ての患者・利用者に関して適用されるものであり、その人が感染症などになっているかどうかは無関係です(さらに他の対策も必要となる可能性はあります)。

「汗以外のあらゆる分泌物、体液、血液、損傷のある粘膜・皮膚は、感染症病原体を含有している恐れがある」ということを大前提として、ガウン・マスクなどの個人防護用具を装着したり、手指の清潔維持に取り組んだりするなど、感染リスクを抑えるための方法を示すものです。

標準予防策ができるまでの歴史

1985年:アメリカの疾病管理予防センター(CDC)がユニバーサルプリコーションを示す。
※これは医療従事者を主な対象として、エイズウイルスなどの血液由来の病原体から、守るための対策でした。

1996年:CDCが標準予防策を示す
※あらゆる患者に対しても適用できるようにユニバーサルプリコーションをブラッシュアップしたものです。適用範囲が「医療従事者→全ての人」と広がったと考えると分かりやすいでしょう。

現在でも「標準予防策を厳守すること=医療・介護現場における感染予防策の基本」と広く認識されています。
そして標準予防策の主な項目は以下の通りです。

適切な手指衛生で感染リスクを下げる

適切な手指衛生で感染リスクを下げる

手指消毒や手洗いは標準予防策の中でも特に重視されています。また、「高齢者介護施設における感染対策マニュアル(厚労省)」でも、「手洗いが感染症予防の要である」と強調されています。適切に手洗いをして、施設における感染拡大を防ぎましょう。
流水と管理の行き届いた洗浄剤を使うのが手洗いの原則です。手首、手の甲、親指の付け根、指の間、指先などは汚れが残存しやすいですから気をつけましょう。

歯科診療所における
新型コロナウイルス感染予防
について


歯科医療従事者のための
新型コロナウイルス感染症に
ついての基礎知識


診療に関する留意点


診療環境に関する留意点


スタッフに関する留意点

Ⅰ歯科医療従事者のための
新型コロナウイルス感染症に
ついての
基礎知識

感染源となる「病原菌」、「感染経路」、「宿主の抵抗力」の3つの因子が揃ったときに初めて”感染”となります。

感染対策としては、以下の3つが有効です。

  • 1病原体(感染源)の排除する

    病原体(感染源)の排除する

    細菌やウイルスなどは、感染症の原因菌となります。いわゆる病原体や感染源と呼ばれるものです。

    嘔吐物や排泄物、創傷皮膚、粘膜、血液、体液、痰や膿なども感染源となる場合があります。
    さらに使用した器具や器材、上記に触れた皮膚なども感染源となる危険性が考えられます。

  • 2感染経路を遮る

    感染経路を遮る

    感染経路は主に、接触感染、飛沫感染、空気感染、血液媒介感染等があります。

    1.接触感染
    手指や食品、器具などを介する頻度の高い伝播経路です。
    ノロウイルス(※)や腸管出血性大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRCA)等が接触感染します。

    2.飛沫感染
    せきやくしゃみ、会話といった飛沫によるもので、5μm以上で伝播します。
    1m以内に床に落ちるため、空中にとどまることはありません。
    インフルエンザウイルス(※)、ムンプスウイルス、風疹ウイルスなどがこの飛沫感染です。

    3.空気感染
    せきやくしゃみなどにより、飛沫核として伝播し、空気の流れによって飛散します。
    結核菌や、麻疹ウイルス、水痘ウイルスが空気感染にあたります。

    4.血液媒介感染
    注射等により、病原体(感染源)に汚染された物質が体内に入ることで感染します。
    B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスなどが血液媒介感染で感染します。

    ※ノロウイルスとインフルエンザウイルスは、空気感染の可能性もあるといわれています。尚、インフルエンザウイルスに至っては、接触感染で感染する可能性もあります。

  • 3宿主の抵抗力を高める

    宿主の抵抗力を高める

    患者さまの免疫力が、そのまま感染の重症化に大きく関わるといわれています。免疫力を高めることで、重症化のリスクを減らすことができます。

    日々の生活習慣を改めて見直し、食生活・睡眠など、規則正しい毎日を送っていただくのが理想です。

    勿論、感染源の有無に関わらず、血液や嘔吐物、排泄物といった湿性生体物質は感染するリスクがあるという”標準予防策”(スタンダード・プリコーション)や”感染経路別予防策”といった基本の予防策も非常に大切です。

標準予防策(スタンダード・プリコーション)

1985年にアメリカの国立疾病予防センター(CDC)が院内感染対策のガイドラインとして提唱した一般予防策(Universal Precautions、ユニバーサル・プリコーション)をより広く、整理したものが標準予防策(Standard Precautions、スタンダード・プリコーション)で、1996年に誕生しました。

感染対策の基本は、この標準予防策と感染経路別予防策の2つです。
その内、標準予防策は、患者さまの血液や体液、分泌物、嘔吐物といった感染の危険性があるものの接触をコントロールすることを目的としています。

上記に挙げた湿性生体物質は、”正しく取り扱いが必要なものである”という考えの元に策がとられています。

安心して患者さまに
ご来院いただくための対応

新型コロナウイルスが流行して以来、私たちの生活は一変しました。
花粉症の時期にマスクが売り切れ、マスクが手放せないなんて人もいたと思いますが、日常的にマスク着用する時代が来るとは誰も想像していなかったと思います。

未だ、収束の兆しが見えない新型コロナウイルスの感染に不安を感じている患者さまも多くいらっしゃいます。
そんな患者さまの精神的配慮、院内の感染の徹底は、歯科医院が行うべき感染予防策として非常に重要だと考えます。

また、歯科医療従事者は直接新型コロナウイルスの治療を行うことはありませんが、医療従事者として、正しい知識を身につけることも患者さまのために必要だと考えています。

Ⅱ歯科診療に関する留意点

院内感染対策のためには、標準予防策を遵守すること、また患者さまの治療環境への配慮、院内の環境に応じた予防対策が必要です。

エアロゾル感染の概念

エアロゾルは、国によって少し定義が異なります。
日本においてのエアロゾルとは、気体中に浮遊する微小な液体、または個体の粒子のことを”エアロゾル”といいます。

(公社)日本医師会 新型コロナウイルス感染症 外来診療ガイドより

診療室内のエアロゾル対策

歯科医院のエアロゾル対策で最も重要なのは、吸引装置の適正使用です。

患者さまの口から出る液滴とエアロゾルの分散を防ぐため、歯科用バキュームは正しく使用することが求められます。確実且つ的確な操作、口腔外吸引装置の使用も検討します。

超音波スケーラーやエアタービン、ハンドピースを使用する際は、適正の水量になるようこまめに調整してください。こうすることで、飛沫を最小限に抑えることができます。
また、治療中の飛沫防止のため、ラバーダムも活用しましょう。

手袋、フェイスシールドや
ゴーグルの使用について

手袋は、患者さま毎に新しいものを使用します。
手袋の装着前後には必ず、手洗い、手指の消毒を行い、手指を常に衛生的に保つように努めます。

手袋の穴あきや破損は、ビニール手袋が一番脆く、リーク率は26~61%になります。ラテックスは0~4%、ニトリルは1~3%とリーク率を下げられるので、こちらの活用がおすすめです。

尚、フェイスシールドやゴーグルはエアロゾル対策としてとても有効です。
口、鼻、目の粘膜を通して感染することもあるので、必ず着用しましょう。

また、目への曝露の可能性もあるため、普段眼鏡を着用している人でもフェイスシールドやゴーグルは必須です。

こういった個人防護具を外す際は、外した防護具は汚染されている可能性があることに留意し、所定の場所に速やかに廃棄することも忘れないようにしてください。

歯科用ユニットやその周辺、
患者さまが接触する部分の
消毒

印象材、技工物の消毒

X線撮影について

患者さまの体調不良について

患者さまがご来院の際は、必ず、検温と消毒を行ってください。
発熱や咳等の症状の他、味覚や嗅覚の異常がないかなど、体調チェックが必須となります。

※新型コロナウイルスの症状は多岐にわたります
発熱、咳、倦怠感、味覚や嗅覚の異常の他、下痢、嘔吐、頭痛、関節痛、呼吸困難、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、目の痛みや充血など
参考:一般社団法人 日本環境感染学会 「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド 第3版」

治療前後のうがい

患者さまには、治療前に消毒薬でうがいをしてもらうのも感染予防・飛沫感染対策として有効です。
消毒薬でのうがいは、口腔内の微生物数のレベルを引き下げます。
治療後のうがいも同じで、ユニット内で行えることから、簡単な予防としても適切です。

消毒薬に利用するのは、ポビドンヨード、クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどがあります。
ただし、日本ではクロルヘキシジンでアナフィラキシーの事例が報告されているので、うがい薬として使用する際は0.05%に留められています。

Ⅲ診療環境に関する留意点

新型コロナウイルス感染症は、標準予防策を徹底するのはもちろんですが、「3密」の回避も重要です。「密閉」、「密集」、「密接」を回避する対策について、しっかりと考えていく必要があります。

密集、密接の回避

待合室の混雑を回避し、密集・密接を避けるスケジュール管理が必要です。
診療内容を予め把握し、診療時間の予測を立て、スケジュール調整に活かします。
可能な限り、予約間隔を広げ、ユニットの清掃等の時間も儲けるようにしましょう。

患者さまには、密集・密接を避けるため、より予約時間を遵守していただくようにお願いしてください。
予約時間前に到着し、予約時間には診療が開始できるようなスケジュールが理想です。

換気を行い、密閉を回避

密閉を防ぐため、定期的に窓開けなどによる換気を行ってください。
以前、重症急性呼吸器症候群(SARS)が流行した際に、空調の整っている大きな病院よりも、窓開けを定期的に行っていた小さな病院ほど、院内感染率が低かったという海外の報告もあります。
新型コロナウイルス感染症も同じく、換気することが感染率を低下させるといわれています。

接触感染予防への配慮

小さなお子さま用のおもちゃや絵本、雑誌類、消毒の難しいものは一時的に撤去しましょう。

受付環境

スタッフは常時サージカルマスクを着用し、飛沫感染予防に努めてください。
患者さまに関しては、受付、待合室、治療時以外の全ての時間でマスクを着用してもらうようにお願いしてください。
まん延防止措置、緊急事態宣言が解除されていても、マスクの習慣は感染対策として必須事項です。

ビニールカーテンやパーテーションを利用した感染対策も有効ですが、内部の換気状態が悪くなると逆効果になってしまうこともあります。換気を第一に考えていきましょう。

手指消毒や検温の徹底

患者さまの来院時は、手指の消毒、検温を徹底して行うようにしてください。
歯科医療従事者が感染源とならないよう、スタッフは日々の健康管理に努めてください。

Ⅳスタッフに関する留意点

スタッフの体調管理

出勤時、退勤時に必ず検温を行いましょう。
必ず報告義務を設け、把握しておくことが大切です。

発熱がなくとも、喉の痛みや倦怠感等の症状はその都度報告し、自宅待機等の措置も検討してください。

スタッフルーム内での
注意事項

歯科医院でのクラスター発生を予防するため、以下に注意しましょう。