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更年期と歯ぐきの変化|女性ホルモンと歯周病の意外な関係を代官山の歯科が解説

こんにちは。代官山WADA歯科・矯正歯科の歯科医師です。
診療をしていると、更年期の前後(おおよそ45〜55歳)に「歯ぐきが腫れやすくなった」「出血しやすい」「口の中が乾く」「口角が切れやすい」「口臭が気になる」と訴える方が増えてきます。長年きちんとケアしてきた方でも、ある時期を境に口腔のコンディションが崩れやすくなる——その背景には、女性ホルモンの波と炎症の感受性の変化が密接に関わっています。
今回は、更年期と歯周病の関係を“仕組み”から丁寧にひもとき、日常で何を意識するとコンディションが安定しやすいか、歯科でどんなサポートが受けられるのかを、臨床の実感を交えてお話しします。
目次
- 更年期に口の中で何が起きているのか
- エストロゲンと歯周組織:炎症が“起こりやすく、長引きやすい”理由
- 乾燥(ドライマウス)と味覚の変化:唾液という“最強の自浄システム”の低下
- 骨密度と歯槽骨:閉経後に見落とされやすいリスク
- お薬とのつき合い方:ホルモン療法・骨粗鬆症治療薬・向精神薬など
- 日常で整えるべき五つの視点(食事・睡眠・清掃・習慣・ストレス)
- 歯科でできる評価と治療計画:今の状態を正しく“見える化”する
- よくある誤解とつまずきポイント
- まとめ:波がある時期こそ、“小さく整え、長く続ける”
1. 更年期に口の中で何が起きているのか
更年期は、卵巣機能の変化に伴い女性ホルモン(特にエストロゲン)が低下していく時期です。エストロゲンは歯肉上皮や結合組織、血管反応、骨代謝にまで広く影響しています。そのため、同じ量の歯垢(プラーク)でも、以前より炎症が強く出たり、収束に時間がかかったりします。
加えて、睡眠の質の低下、ほてり、発汗、動悸、不安感など全身の不調が重なると、清掃や通院のリズムが乱れやすくなります。結果として、歯周病の“火種”が鎮まりきらずくすぶり続ける期間が長くなり、出血や腫れを繰り返すという流れが起こります。
2. エストロゲンと歯周組織:炎症が“起こりやすく、長引きやすい”理由
エストロゲンには、粘膜上皮のターンオーバーや血管の安定化、コラーゲン代謝の調整にかかわる作用があります。低下すると、上皮バリアの脆弱化、毛細血管の反応性亢進、コラーゲンの再構築の遅れが生じ、歯肉が刺激に過敏になります。歯周ポケット内では、バイオフィルムに対する免疫反応がやや過剰になりやすく、同じプラークでも出血点が増えやすい状態になります。
臨床で印象的なのは、「磨いても赤みが引きにくい」「フロスで毎回うっすら出血する」「軽い腫れが続く」といった“弱い炎症の持続”です。強い痛みはなくても、骨縁の高さがじわじわ下がることで、歯肉退縮や歯間のブラックトライアングル、知覚過敏が目立ってきます。
3. 乾燥(ドライマウス)と味覚の変化:唾液という“最強の自浄システム”の低下
更年期には唾液量が落ちる方が少なくありません。唾液は酸の中和、再石灰化、防御因子の供給、機械的洗浄のすべてを担う“自浄システム”です。量が減ると、口腔内は酸性に傾き、プラークが粘着化し、舌や頬粘膜の擦り傷が増えます。結果として、歯周病は再発しやすく、根面う蝕や口角炎も起こりやすくなります。
味覚の変化も時に見られます。金属様の味、苦味、辛味への過敏などが出現すると、食事内容が偏りがちになり、間食や甘味が増えてさらにプラークが付着しやすい環境が整ってしまうことがあります。乾燥は夜間に強まる傾向があるため、就寝前のケアと保湿の工夫が効果を発揮します。
4. 骨密度と歯槽骨:閉経後に見落とされやすいリスク
閉経後は骨代謝が変化し、全身の骨密度が低下しやすくなります。顎の骨(歯槽骨)も例外ではありません。歯周炎による局所の骨吸収に、全身的な骨代謝の低下が重なると、同じ炎症でも骨の下がり方が速くなるケースがあります。
健康診断や婦人科での骨密度結果を歯科に共有していただくと、リスク評価が精密になります。歯周外科やインプラント、骨造成などを検討する際にも、骨の質と治癒の予測に関する重要な情報になります。
5. お薬とのつき合い方:ホルモン療法・骨粗鬆症治療薬・向精神薬など
更年期症状の緩和にホルモン補充療法(HRT)を受けている方、骨粗鬆症でビスホスホネート製剤やデノスマブ等を使っている方、睡眠・自律神経症状で向精神薬や抗不安薬を内服している方がいらっしゃいます。これらは口腔に影響することがあります。
HRTは口腔粘膜の乾燥や疼痛に改善をもたらすことがありますが、個人差があります。ビスホスホネート製剤やデノスマブは、観血処置(抜歯・外科)に際しては骨関連合併症のリスク評価が必要です。向精神薬の一部は唾液分泌を低下させることがあります。受診の際は、薬剤名・用量・期間を教えてください。必要に応じて主治医の先生と連携し、安全な治療計画を立てます。
6. 日常で整えるべき五つの視点(食事・睡眠・清掃・習慣・ストレス)
更年期は「頑張り続ける」より「無理なく続ける」戦略が功を奏します。食事は、酸性飲料と糖の“回数”を意識し、たんぱく質とミネラル、発酵食品を意識して取り入れると、粘膜の修復と唾液の質が安定します。睡眠は量だけでなく質を重視し、就寝1〜2時間前のカフェイン・アルコール・強い光刺激を避けると、夜間の口呼吸や食いしばりが和らぎやすくなります。
清掃は、夜だけは必ずフロスまで行う“核となる習慣”を決めて、忙しい日も守る。歯ブラシはヘッドが小さく、毛が柔らかめのものに変更し、歯肉縁に毛先をそっと当てて細かく動かす。乾燥が強い日は、就寝前に保湿ジェルを薄く塗布し、枕元に水を置く。ストレスは噛みしめを増やします。就寝前の数分、深呼吸やストレッチを取り入れるだけでも、翌朝の歯肉の浮腫が軽くなる方がいます。
喫煙やVAPEは、血流低下と乾燥を同時に招きます。完全にやめられなくても、就寝前の使用を避けるだけで炎症の“ベースライン”が下がることがあります。
7. 歯科でできる評価と治療計画:今の状態を正しく“見える化”する
当院では、まず現在地を正確に把握します。歯周ポケットの深さ、出血点の分布、動揺度、プラーク付着の癖、咬合接触のパターン、口呼吸の有無、唾液の質と量、舌・口角の状態。必要に応じて口腔内写真やレントゲン、CTで骨の高さと厚みを確認します。
治療は、炎症の鎮静化から始めます。縁上・縁下のクリーニングでバイオフィルムを断ち、ホームケアの“続くやり方”へ置き換えます。出血が消えるにつれて、歯肉の色調が落ち着き、朝の粘つきが軽くなり、知覚過敏が和らぐ方が多いです。
歯肉退縮が目立つ、ブラックトライアングルが気になる、審美領域の赤みが引かない——こうした場合は、補綴形態や噛み合わせの微調整、歯周形成外科(結合組織移植など)の適応を慎重に検討します。外科が必要な際は、全身状態・薬剤・骨密度を踏まえ、ダウンタイムや期待できる改善幅を具体的に共有します。
メンテナンスの間隔は、初期は短め(1〜2か月)から始め、出血点と清掃状況が安定したら徐々に延ばします。更年期は“波のある時期”なので、体調に合わせて間隔を伸縮させる柔軟さが再発予防の鍵になります。
8. よくある誤解とつまずきポイント
「年齢のせいだから仕方ない」——年齢そのものが原因ではありません。炎症の起点(バイオフィルム)と環境(乾燥・清掃性・負荷)が整えば、歯肉は年齢にかかわらず落ち着きを取り戻します。
「強く磨けば早く良くなる」——過圧は歯肉を傷つけ、退縮と知覚過敏を助長します。力ではなく当て方と時間です。
「忙しいから通えない」——短い枠でクリーニングとチェックのみを積み上げる方法も有効です。炎症を小さく保つことが最優先で、複雑な処置は体調が安定している時期に回せば大丈夫です。
「薬を飲んでいるから歯科治療はできない」——ほとんどの場合、適切な準備と情報共有で安全に進められます。遠慮なく内服情報をお伝えください。
9. まとめ:波がある時期こそ、“小さく整え、長く続ける”
更年期は、体と心のリズムが揺れる時期です。歯ぐきもまたその影響を受け、炎症が起こりやすく、引きにくくなることがあります。大切なのは、完璧を目指すことではありません。乾燥を減らし、夜の清掃を核に据え、食事と睡眠のリズムを少し整え、歯科で“今の状態”を定期的に見える化する。
小さな手当てを続けるほど、炎症のベースラインは下がり、数か月後の歯肉の色・出血・口臭・しみ感に、はっきりと違いが出てきます。波がある時期だからこそ、一緒に無理のない計画を立て、静かに整えていきましょう。気になるサインがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
渋谷区代官山T-SITE内の歯を残すことを追求した歯医者・歯科
TEL:050-3188-8587
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