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口呼吸・いびきと歯周病の関連|ドライマウス対策と日常でできる改善ポイント

こんにちは。代官山WADA歯科・矯正歯科の歯科医師です。
診療をしていると、「就寝中のいびきや口呼吸があり、朝起きると口が乾いている」「フロスで毎回出血するようになった」という相談をよく受けます。歯周病は細菌による慢性炎症が主因ですが、呼吸の通り道と呼吸様式(鼻呼吸か口呼吸か)は、炎症の起こりやすさと治りやすさを左右する“環境”そのものです。
本稿では、口呼吸・いびき・睡眠中の低換気がなぜ歯ぐきに影響するのか、その仕組みを丁寧に説明し、今日からできる現実的な対策、耳鼻科・睡眠医療との連携、歯科で行うサポートまで、臨床の実感を交えてお話しします。
目次
- なぜ口呼吸はいけないのか――歯周病の“土壌”をつくる仕組み
- いびき・睡眠時無呼吸が歯ぐきに与える影響
- ドライマウス(口腔乾燥)とプラークの粘着化
- 歯並び・舌位・噛み合わせと口呼吸の関係
- 自宅でできるセルフチェックと、受診時に伝えてほしいこと
- 今日からできる改善ポイント(昼/夜/就寝前の設計)
- 耳鼻科・睡眠科との連携:根本原因を一緒に整える
- 歯科で行うサポート:清掃設計・装置・メインテナンス
- よくある誤解と注意点
- まとめ:呼吸を整えることは、歯周病治療の一部
1. なぜ口呼吸はいけないのか――歯周病の“土壌”をつくる仕組み
口呼吸では、乾いた空気が直接、歯肉や頬・舌の粘膜に当たります。乾燥が続くと、唾液の防御機能(酸の中和、抗菌、再石灰化、機械的洗浄)が弱まり、プラークは粘着化して落ちにくくなります。加えて、乾燥面では微小な擦過傷が増え、そこに細菌が定着しやすくなるため、同じ清掃でも炎症が長引くという現象が起こります。
口呼吸は舌位(舌の置き場所)も低くしがちで、舌が上顎から離れると、上顎の歯列が外側から支えられず、歯弓が狭くなり、歯と歯の間の“影”が増えます。影はバイオフィルムの温床です。つまり、乾燥+清掃性低下+微小外傷という三重の理由で、歯周病の土壌が育ってしまうのです。
2. いびき・睡眠時無呼吸が歯ぐきに与える影響
いびきは、上気道(鼻〜咽頭)の狭窄により空気が乱流となって粘膜を振動させている状態です。振動と陰圧は粘膜の浮腫(むくみ)を招き、就寝中の口呼吸を助長します。睡眠時無呼吸は、断続的な低酸素と微小覚醒を繰り返し、交感神経の緊張と夜間の口腔乾燥を強めます。
この“乾燥+睡眠の質低下”は、翌日の噛みしめ(食いしばり)を増やしがちです。力の過負荷は歯周組織の血流を妨げ、炎症がある部位では骨吸収に傾きやすくなります。結果として、出血が引きにくい/特定の部位だけ再燃するという局所所見が続きます。
3. ドライマウス(口腔乾燥)とプラークの粘着化
乾燥が強い口では、起床時の粘つき、舌のひび割れ、口角炎、会話中の舌疲労などが見られます。唾液は“動くほど”働きますので、夜間の唾液低下が続くと、朝一番のプラークは密で硬い印象に変わります。密なプラークは物理的に剥がれにくく、同じブラッシングでも落ち切らない残渣が増え、歯肉縁の慢性炎症につながります。
水分摂取量だけの問題ではなく、“口呼吸という乾燥の原因”を減らさない限り、対症的な保湿だけでは限界があります。
4. 歯並び・舌位・噛み合わせと口呼吸の関係
上顎が横方向に狭い、下顎が後方位、鼻腔が狭い、アデノイド肥大の既往がある——こうした背景は、口呼吸を選びやすい構造です。舌位が低いと、前歯が前方へ傾斜(フレア)しやすく、歯間が開き、清掃が難しくなります。噛み合わせでは、開咬や過蓋咬合の一部で舌の居場所が不安定になり、睡眠中の気道確保を口呼吸で代償するケースを見ます。
矯正の計画では、歯を動かすだけでなく、舌位と気道の余裕を同時に考えると、長期的に鼻呼吸へ移行しやすくなり、歯周病管理にも好影響が出ます。
5. 自宅でできるセルフチェックと、受診時に伝えてほしいこと
起床時の口の乾き、朝の口臭、舌の縁の圧痕、頬粘膜の歯列の跡、日中の口唇の開き癖、集中時の口呼吸。これらが複数あれば、夜間の口呼吸の可能性が高まります。いびきアプリの記録、家族からの指摘、鼻づまりの左右差、アレルギー性鼻炎の季節性、就寝前の飲酒・喫煙・カフェイン習慣も参考情報です。
受診時には、これらをメモで構いませんので共有してください。歯周検査の所見(出血点・ポケット)と呼吸の情報を重ね合わせると、対策の優先順位が見えてきます。
6. 今日からできる改善ポイント(昼/夜/就寝前の設計)
昼:まず鼻呼吸の意識づけから。口唇は軽く閉じ、舌先は上顎前方(スポット)に触れさせる位置で“休む”習慣をつくります。長時間の会話やデスクワークでは、こまめに水をひと口。マスク下で口が開きがちな方は、上下の歯を離す意識をセットにすると噛みしめ予防にもなります。
夜:夕食〜就寝の間は、酸性・糖質の飲み物をダラダラ摂らない設計に。就寝1〜2時間前のアルコール・強いカフェインは、いびき悪化と口呼吸に寄与しやすいので控えめに。
就寝前:“核のケア”として、歯肉縁に毛先をそっと当てるブラッシング+フロス(または適正サイズの歯間ブラシ)。仕上げに保湿ジェルやオイルで口腔粘膜を軽く覆い、枕元に水。鼻腔ケア(温水洗浄や鼻腔用保湿)は、鼻呼吸への移行を助けます。
テープ等で口を強制的に閉じる方法は、鼻がしっかり通ることが前提です。鼻閉がある状態で行うと睡眠の質を落とすことがあるため、まずは鼻の通りを改善し、違和感がない範囲で慎重に進めます。
7. 耳鼻科・睡眠科との連携:根本原因を一緒に整える
慢性的な鼻閉(アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔弯曲など)があれば、耳鼻科での評価が近道です。就寝中のいびき・無呼吸が疑われる場合は、簡易検査で無呼吸低呼吸指数(AHI)を確認し、必要に応じて精密検査・治療(CPAP、生活指導、体位療法など)を検討します。
歯科側では、医科の治療と干渉しないよう配慮しつつ、口腔内装置(睡眠時下顎前方移動装置)が適応となる症例では主治医と相談しながら導入します。鼻が通り、いびきが軽減すると、夜間の口腔乾燥が減り、歯周病の再燃が落ち着く方は少なくありません。
8. 歯科で行うサポート:清掃設計・装置・メインテナンス
まずは縁上・縁下のバイオフィルムを断ち、出血点をゼロに近づける基本治療から。乾燥口ではプラークが固着しやすいため、器具やチップの選択を部位別に変え、“必要最小限の力で滑沢に”を徹底します。
ホームケアは、生活の流れに合わせて“続く形”に作り替えます。道具は少数精鋭で、ヘッド小さめ・毛やわらかめのブラシ、ワックス付きフロス、適正サイズの歯間ブラシ、必要に応じてワンタフト。就寝前の保湿は、刺激の少ない製品を薄く。
噛みしめが強い方には、ナイトガードで組織への負荷を分散し、乾燥+過負荷の相乗効果を断ちます。メインテナンスは初期は短め(1〜2か月)から入り、出血点と自覚症状が落ち着けば間隔を調整します。
9. よくある誤解と注意点
「水分をたくさん飲めば乾燥は解決する」——一時的には楽になりますが、口呼吸という原因が残ると根本的な改善は限定的です。
「強く磨けば早く治る」——過圧は歯肉退縮と知覚過敏の呼び水です。当て方と時間を整える方が結果につながります。
「口テープを貼ればすべて解決」——鼻閉があるまま無理に閉じるのは逆効果になることがあります。鼻の通りの改善が先です。
「いびきは年齢のせい」——体重、鼻炎、顎位、睡眠衛生など、整えられる要素が多くあります。思い当たるところから少しずつでも、歯周病の経過は変わります。
10. まとめ:呼吸を整えることは、歯周病治療の一部
歯周病は、細菌と免疫のせめぎ合いだけで決まりません。乾燥・清掃性・力学ストレス・睡眠の質が重なって、炎症のベースラインが決まります。鼻呼吸へ近づく環境づくり、就寝前の“核のケア”、保湿、噛みしめ対策、そして必要な医科連携。どれも大がかりなことではありませんが、積み重ねるほど、歯ぐきの色・出血・朝のねばつき・口臭に変化が現れます。
「朝、必ず口が乾いている」「いびきが増えた」「フロスで毎回出血する」——一つでも当てはまれば、見直しの合図です。無理のない方法を一緒に設計し、静かに整えていきましょう。
少しでも参考になれば幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
東京都渋谷区代官山T-SITE内の歯を残すことを追求した歯医者・歯科
『代官山WADA歯科・矯正歯科』
住所:東京都渋谷区猿楽町16-15
TEL:050-3188-8587
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